2023年1月2日月曜日

「おカネはおカネで、ものはものだから、500円をかえしたほうがいい」

 むかし、通信制大学の単位認定試験をうけに行ったときがあった。そのとき、じつは帰りの電車賃がたりないことに気がついたのだ。

で、各教室のほかに待合室というような感じで公共のスペースがあった。

そこでは、いろいろな人が、本を読んだり、話をしていたりしていた。で、ある老人(男性高齢者のAさん)と話をして、500円借りた。

で、そのとき、Aさんが、ぼくがもっていた本に興味をもった。その本は通信制大学の教科書なんだけど、試験が済んだので僕には必要がないものになっていた。

だから、Aさんが、その本をくれれば、500円は返さなくていいというようなことを言った。Aさんとぼくが、いつ会えるのか、わからないので、どうやって、500円をかえせばいいのかなということについて、Aさんと話をしたときに、そういうことをAさんが言った。

だから、これで、話がついたわけだ。

Aさんとぼくは、本と500円を交換した。

そして、ぼくが、このことを「いい話」としておかあさんに話した。おかあさんというのは、ぼくのおかあさんだ。

そうしたら、おかあさんが、「おカネはおカネで、ものはものだから、500円をかえしたほうがいい」と言い出した。

ぼくが「いや、500円と本を交換したのだから、それでいいんだよ」と言った。そうしたら、おかあさんが「おカネは、おカネだから……」とぼくが言った。

「たとえば、中古の本屋で、500円の本を、500円、出して買った場合、本とお金を交換したことになる。おカネはおカネだからと、本を売ったあと、さらに、500円をかえすのはおかしい」というようなことを言った。

そうしたら、おかあさんが「古本屋の場合は商売だから問題がない」ということを言った。そうしたら、おかあさんが「普通の人どうしの貸し借りだから、おカネはかえしたほうがいい」と言った。

で、おかあさんの視点から見ると、ぼくが、老人から借りた金を返さない人に見えるわけだよ。それは、すわりが悪い。それは、ぼくとしてはいやだ。

だから、「おカネをもらって、本をあげたんだからそれでいいんだよ」ということを言ったのだけど、おかあさんは納得しない感じだった。だから、その人(Aさん)に会ったら、おカネを返しておくよと、おかあさんに、ぼくは言った。

で、この文では、「おかあさん」と言っているけど、Aさんに話すときは、「おかあさん」と言うのが、どうしてもいやだったので、「家の人」と言っておいた。試験日は何回かあったので、試験日のたびに、Aさんを探していた。で、Aさんを見つけたので声をかけたのだけど、Aさんが反応しないのだ。Aさんは待合室のような共同スペースの椅子に座って、新聞を読んでいた。

で、何回も「すいません!!すいません」と声をかけて、やっと、ぼくの存在に気づいてもらったのだ。けど、そのとき、待合室でその光景を見ていた人が「あー、がん無視されてやがる」と言ったのだ。そんなこんなで、あんまりよくない再会になったのだけど、とりあえず、「あのことを家の人に言ったら、家の人が、500円をかえしたほうがいいというので返します」というようなことを言った。そうしたら、Aさんが「あれは、もうすんだ話だろ。本をもらってしまったのだから、500円を受けとるわけにはいかない」と言って、受けとろうとしないのだ。けど、ぼくは、Aさんに500円をかえさないと、おかあさんの目から見て、老人に借りた金を返さない人になってしまうので、いやだった。で、なんとかねばって、「それなら、300円もらおう」とAさんが言ったので、300円払った。

で、ぼくの感覚としても、やはり、すんでいるんだよね。本と500円を交換したところで話が終わっている。それ、ぼくの感覚で言っても『すんだ話』だ。けど、おかあさんの感覚だと、どうしても、「本とおカネはちがうから、500円は返したほうがいい」ということになっているらしい。

で、この話を、ぼくはおかあさんに話すべきじゃなかったなと思った。

「300円もらおう」と言ったAさんも、じつは、あんまり、もらいたくなくて、しかたなしに受けとったとい感じなのだ。

Aさんの感覚だと、ぼくから金をもらうのは二重取りになってしまうので、いやなのだ。こっちの感覚はわかる。

ぼくからお金をもらうなら、Aさんは、自分が本をかえさなければならない立場になる。

やっぱり、おかあさんの感覚がおかしいな。ほんとうは、「いい話」として話したんだよ。「こういういいことがあったよ」といことを言いたかった。まさか、「本は本で、おカネはおカネだから、おカネを返したほうがいい」と言ってくるとは思わなかった。まったく、考えてなかった。ぜんぜん、予想してなかった。

これ、普通の人ってどうなの? おかあさんの感覚より、ぼくの感覚のほうが一般的だよな。Aさんだって、ぼくとおなじ感覚をもっていたから、ぼくから、おカネを受けとりたくはなかったわけだし……。

(注)単位認定試験というのは、科目ごとにやるので、1日に数科目うけることになる。1日に1科目の場合もあるかもしれないけど、それはまれだ。その日は3科目うけた。


いつも読んでくださるかたに感謝しております



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