「人間は1日6万回思考している」という言説が出回っているけど、これは、おかしい。まず、どうやって、6万回試行しているということを調べたのかということが、明らかになっていない。
いちおう、Google検索で 「人間は1日6万回思考している」という言葉で、検索した場合の結果を引用しておく。これは、AIの記述部分だ。
引用開始
「一日6万の思考が発生する」という考えは、人間の脳が持つ膨大な情報処理能力を示しており、アメリカ国立科学財団の研究によると1日に1.2万から6万回の思考が生まれると言われています。
さらに、多くの思考が前日と同じ内容の繰り返しで、その多くがネガティブな内容であると指摘されています。
思考回数: 脳は起きている時も寝ている時も働き続け、1日に6万回以上も思考するといわれています。アメリカ国立科学財団の研究では、1.2万回から6万回という範囲が示されています。
思考の繰り返し: その思考の約9割が前日と同じ内容であるとされ、約8割がネガティブな内容だという研究結果もあります。
思考の複雑化: 日常的な思考に加えて、気になる情報が加わることで脳の思考はさらに複雑化します。
ネガティブ思考への対策: ネガティブな思考を軽減するためには、マインドフルネス瞑想や、行動を起こして注意をそらす、場所を変えるといった方法が有効です。
引用終了
どうやって調べたのかということが書いていない。これは、相当にあやしい言説だ。こういう、へんな言説がはやる背景には、「黒」がいる可能性がある。「黒」が意図的にこういう言説をはやらせたという確率は、かなり高い。
「1日に1.2万から6万回の思考が生まれる」ということは、記述されているけど、どうやって、数えたのかということは、記述されていない。ほんとうに、どうやって数えたの?
さらに、寝ている間も思考しているとして、寝ている間の思考の回数はどうやって、数えたのか? さらに、「約8割がネガティブな内容だという研究結果もあります」という記述があるけど、どういう内容を「ネガティブな内容だ」と判定したのかという基準についての記述はない。
これは、もう、なにも言っていないのとおなじだ。
けど、 「アメリカ国立科学財団の研究」なのだから、正しいのだろうと、思ってしまう人も多い。散見できる。
なんで、「1日に1.2万から6万回の思考が生まれる」という記述を読んだときに、「おかしい」と思わないのか?
だいたい、なにをして「1回の思考」としてカウントするのかという問題がある。思考の区切りが明確にあり、ここからここまでの思考が1回目の思考、ここからここまでの思考が2回目の思考ということになっているようなイメージを与えるけど、じつは、そんな明確な具切りは存在しない。
根拠として考える部分と、結論として考える部分があるとする。これを(両方とも合わせて)1回の思考として考えるか、根拠として考える部分を1回の思考として考えて、結論として考える部分を1回の思考として考えて合計2回の思考と考えるかで、もう、数(かず)がちがってくる。
人間の思考というのは、わりと切れ目なくつながっている部分がある。たしかに、 「人間は1日6万回思考している」ということについて考えたあと、「なにを食べようかな」と考えた場合は、2回の思考があったとカウントするのが適切であるような感じがする。
しかし、「人間は1日6万回思考している」ということを考えているとき、「人間は1日6万回思考している」ということや「人間は1日6万回思考しているという言説のもとになる論文はほんとうに実在するのか?」ということや、「このアメリカ国立科学財団というのは、どういう組織なんだ」ということを考えたとする。
そうしたら、これは、3個のことを考えたから、3回考えた(3回思考した)とカウントするのかという問題がある。
「人間は1日6万回思考している」ということ、「人間は1日6万回思考しているという言説のもとになる論文はほんとうに実在するのか?」ということ、「このアメリカ国立科学財団というのは、どういう組織なんだ」ということの3個だということになる。
けど、「人間は1日6万回思考しているという言説のもとになる論文はほんとうに実在するのか?」ということと、「このアメリカ国立科学財団というのは、どういう組織なんだ」ということは「人間は1日6万回思考している」のなかの思考なので、「人間は1日6万回思考している」ということについて考えているあいだの思考なので、「人間は1日6万回思考している」という1個の思考だと考えてしまってもよいということになる可能性がある。
「思考の流れ」というものがあって、それを、どこからどこまでをひとつの(くくり)として考えるかというのは、かなり恣意的なものなのである。
そして「脳は起きている時も寝ている時も働き続け、1日に6万回以上も思考するといわれています」とAIが記述している。
「眠っているとき」の思考も含めているのだ。眠っているとき、何回思考したかなんて、どうやって、カウントするんだよ? かぞえるんだよ?
全部の夢をおぼえているわけではないし、夢の中の思考について、区切って考えることなんてできるわけがないだろ。どうやって、ひとつの(くくり)として「1回の思考」を確定するのだ?
夢ではない現実の物語を聴いたときのことを考えてみよう。物語だから、話の流れがある。話の流れのうち、ここからここまでをひとつの(くくり)として考えるということに関ても、人間は、恣意的に考えてしまう。つまり、うまくカウントすることができない。
人によって、カウントするときの基準がちがう。だいたい、話を聴いているとき、話自体の区切り(くくり)のほかに、自分の中で考えることがある。
いちいち、数なんてカウントすることなんてできない。
話の内容についていうと……話の流れがあるので、どこからどこまでを1個の思考(1回目)として考えるか、むずかしい。話について自分が考えることがある。これも、いちおう流れがあるので、どこからどこまでを1個の思考として考えるか、むずかしい。
「腹がへった」というような、話の流れとは関係がない突発的な思考が発生することがある。
そして、それらを全部、「カウントする(かぞえる)」ということは、平行作業になるので、けっこうむずかしい。無理だろう。普通の人にとって、夢のように不確かな内容ではなくて、明確に記述された物語を聴く場合でも、自分の思考回数を数えることは、かなりむずかしいと言っていい。
さらに、潜在意識というエセ科学用語を使う人たちが、「8割のネガティブ内容を潜在意識で考えている」というようなことを勝手に言い始める。いやーー。潜在意識で考えていることを、どうやって、カウントするんだよ? もう、話にならない。
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レファレンス事例詳細
事例作成日
20230815
登録日時
2024/12/05 00:30
更新日時
2024/12/06 09:50
提供館
東京都立中央図書館 (2110013)
管理番号
中央-2024-11
質問
解決
「人間は1日6万回思考している」という言説の出典を知りたい。
インターネット情報では、アメリカ国立科学財団が2005年に発表したと言われている。
回答
質問者からの情報を参考に、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)のホームページを調査した( https://www.nsf.gov/ )。
「Search/Browse Document Library」( https://www.nsf.gov/publications/ods/ )及びサイト内検索を<60,000 thoughts per day><thoughts><think><brain>
のキーワードで検索したが、該当する論文や記事は見出せなかった。
アメリカ国立科学財団の概要( https://new.nsf.gov/about )によると、「We fulfill our mission chiefly by making grants.」等の記述があり、研究に対して助成金を交付する機関であることが確認できる。
手がかりを得るためにインターネット検索サイト「Google」( https://www.google.com/ )を同様のキーワードで検索したところ、お求めの論文について、存在しないと述べている情報が見出せた。
情報1
「How Many Thoughts Do We Have A Day?」(John M. Jennings) 2022年5月29日
https://johnmjennings.com/how-many-thoughts-do-we-have-a-day/
「it turns out that there is no such National Science Foundation study.」等の記述があり、1日6万回思考しているというアメリカ国立科学財団の研究は存在しないとしている。
併せて、この研究の存在の有無について調査した情報2を紹介している。
情報2
「The 70,000 Thoughts Per Day Myth? Where did this idea come from?」(Neuroskeptic)Discover Magazine 2012年5月10日
https://www.discovermagazine.com/mind/the-70-000-thoughts-per-day-myth
「70,000 Thoughts Per Day」というタイトルで、情報1と同様にアメリカ国立科学財団の研究の存在の有無について述べている。
ここでも、研究の情報源は見つからないとしている。
次に、Googleブックス( https://books.google.co.jp/ )でキーワード<人間><思考><6万回>等を検索し、ヒットした資料を確認した。
資料1『AIが答えを出せない問いの設定力』
p.48-49「改めて問いの意味を考える」
「人間は1日に1万2千~6万回もの思考をしているようです」と記載があり、出典はアメリカ国立科学財団が2005年に発表したレポートとしている。
その他に言説が掲載されていると思われる資料は都立図書館では所蔵がないビジネス書等のため、資料1以外の資料での言説の出典が確認ができなかった。
また、新聞記事や雑誌記事のデータベースでも同様のキーワードで検索したが、情報は見出せなかった。
なお、情報1では1日に約6,000回思考するという、情報3のクイーンズ大学の研究を紹介している。
情報3
「Brain meta-state transitions demarcate thoughts across task contexts exposing the mental noise of trait neuroticism」(Julie Tseng、Jordan Poppenk)2020
https://www.nature.com/articles/s41467-020-17255-9
『nature』がインターネット上で公開している論文である。
以上、インターネット情報の最終検索日はすべて2024年10月24日。
引用終了