そういえば、ものすごくすいているお好み焼き屋で、「いつも、こんなにすいてるんですか」と訊いてしまったことを思い出した。あれ、訊くんじゃなかったな。あんなに広いところに、客が俺一人で、そのあとも、客が入ってくる気配がなかったから、訊いてしまった。
できたばかりの店で、全部が、きれいだった。キラキラの新品。
あれ、なんか話しかけなきゃならないような感じだったから、訊いたんだけど、訊くんじゃなかった。
おそらく、旦那さんの店主は、いろいろとこたえてくれたんだけど、そういうのに、こたえているというのが気に食わないという、店員がいた。たぶん、奥さんなんだよね。
奥さん「たまにくると、ああいう客で……」「ほかの店のスパイだったらどうするのよ」
旦那「考えすぎだろ。ちょっと疑問に思ったから訊いただけでしょ」
奥さん「あんなの、ばか正直にこたえる必要、ないでしょ」
とか、なんとか、始まっちゃったんだよね。
俺が帰るときに、聞こえてしまった。自転車で行ったから、自転車のカギをいじっているときに聞こえてきた。
あそこは、たしかに、大通りじゃないのだけど、そこそこ、人が移動しているようなところなんだよね。けど、考えてみれば、もう、帰り道の一部になっていて、これから、そこで食べようという感じじゃないんだろうな。「家で食べるからいいや」みたいな感じ。それから、行きのときはどうかというと、お好み焼きって感じじゃないんだよね。駅前のマクドナルドやモスバーガーや牛丼屋で食べてしまおうと思うから。牛丼屋には朝定食があるから、和食を食べたい人は、そういうところに行ってしまう。ほかにも、いろいろなチェーン店があるから、わざわざ、お好み焼きを食べようという気にはなれない。
「みんな、駅前のほうで食べてしまう」と旦那が言っていた。
「開店当時は、いっぱい人がきたけど、いまはあんまりこない」とも、言っていた。
あれ、なんか俺は……話さなきゃならないような感じになるときがあるんだよな。
俺のほかにひとりでも客がいればなぁ。カウンター席にすわらされちゃったから、なんか……適当に話をふらなきゃいけないような感じになった。
味は、よかったよ。
あそこは、たぶん、ほんとうに、立地がダメなんだな。とまっていくところじゃなくて、通り道なんだよな。